遺言無効確認
相続では、基本的に故人の遺言が優先されます。しかし、「遺言が見つかったけれど、何か不審な点がある」「内容が本人の希望とは思えない」といった場合はどうでしょうか。場合によっては遺言無効確認訴訟などの形で、遺言の有効性を争うことになります。ここでは、遺言が無効になるケース、さらに実際に遺言の有効性を争う場合にやるべき手続きについて解説します。
遺言が無効になる場合とは
遺言が無効になるケースとしては次のようなものが挙げられます。
方式に不備がある場合
遺言には厳格な方式が定められており、形式面で不備がある遺言は無効になります。公証人の関与の下に作られる公正証書遺言については形式面の不備は比較的起こりにくいといわれていますが、遺言者が手書きで作る自筆証書遺言については形式面の不備が起きやすいです。
本文がパソコンで書かれている、日付や押印がないといった場合、遺言は無効になってしまいます。また過去には、印鑑の代わりに花押が押されたケースや日付が「○年○月吉日」となっていたケースなどで遺言の有効性が争われました。
なお公正証書遺言についても、公証人とのやりとりをめぐり形式面での不備が問題になるケースがあります(遺言者が公証人の説明を理解できない状態にあった場合など)。
証人に欠格事由がある場合
公正証書遺言の作成では証人2名の立ち会いが必要になります。このとき立ち会う証人については制限があり、次に挙げる人は証人になることができません。
- ・未成年者
- ・推定相続人・受遺者本人、または推定相続人・受遺者の配偶者及び直系血族
- ・公証人の配偶者および四親等内の親族、公証役場の職員
そして、これらの人が証人として立ち会っていた場合は、遺言そのものが無効になります。
偽造・変造された場合
自筆証書遺言の場合、本人が全文・日付・署名を自書し、押印して作成します。本人がみずから書いていない遺言書は当然のことながら無効です。筆跡や内容などから偽造・変造が疑われる場合は、遺言の有効性が問題になります。
共同遺言の場合
民法では、2人以上の人間が共同で遺言を残すこと(共同遺言)を明文で禁止しています。したがって、2人以上の人間が作成した遺言は無効です。
遺言者の意思に問題がある場合
有効な遺言書を作成するためには「遺言能力」といって、遺言の内容を理解した上で遺言をする能力が求められています。
基本的に15歳以上の人には遺言能力が認められていますが、認知症などで本人の認知能力が疑われる場合には遺言能力が問題になります。
また、本来遺言は本人の意思にしたがって作成されるべきものです。したがって、詐欺・強迫された、重大な事実について錯誤があったといったように、遺言を作るまでの意思決定プロセスに問題があったといえる場合も遺言の有効性が疑われることになります。
遺言の内容が確定できない場合
遺言の内容が不明確で遺言者の意図するところが確定できない場合も、遺言が無効になります。
公序良俗違反となる場合
遺言の内容が社会的妥当性を欠いている場合、公序良俗違反(民法90条)によって遺言が無効になる可能性があります。
遺言が後見人の利益を図る内容であった場合
後見人(遺言者の直系血族、配偶者、兄弟姉妹の場合を除く)がいる場合において、後見人や後見人の家族の利益を図るような遺言をした場合も遺言が無効になります。
遺言の有効性が問題になりやすいケース
遺言能力、さらに自筆証書遺言の場合は方式の不備や偽造・変造が問題になることが多いです。また遺言の内容や相手方をめぐって公序良俗違反が問題になるケースもあります。
遺言の有効性を争う場合は?
遺言の有効性に疑いがある場合、次のような流れで遺言の有効・無効を争っていくことになります。
調停
遺言の有効性を争う場合まず家庭裁判所に調停を申し立てることになるのが一般的です。
もし調停でも決着がつかなかった場合は、訴訟手続きに移行します。
遺言無効確認訴訟の提起
被相続人の最後の住所地を管轄する裁判所、または当事者が合意で決めた裁判所に、遺言無効確認訴訟を提起します。
この場合、遺言の無効を主張する相続人が原告に、それ以外の相続人や受遺者(遺言執行者がいる場合は遺言執行者)が被告になります。
遺産分割協議・調停
遺言無効確認訴訟の結果、遺言が無効ということになった場合は、改めて相続人間で遺産の分け方を決めることになります。
具体的には相続人全員で話し合い(遺産分割協議)を行うか、それが難しい場合は家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることになるでしょう。
遺言の有効性に疑いを抱いたら
遺言の有効性が問題になった場合、さまざまな角度から遺言の形式や内容を検証する必要があります。これら必要な証拠を集め、適切な法的主張を展開するためには弁護士のサポートが欠かせません。
もし遺言の内容や形式面で疑わしいことがあった場合は、一度弁護士のアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。