「長男だから遺産を全部ほしい」という言い分は通る?【弁護士解説】 |埼玉県、蓮田市・白岡市の相続に経験豊富な弁護士

「長男だから遺産を全部ほしい」という言い分は通る?【弁護士解説】

現在の法律では、相続で子どもは全員平等です。
ところが、実際には法律のとおり、スムーズに話し合いが進むケースばかりではないようです。
 
「長男だから全部遺産はもらう」「親に遺産をもらう約束をした」と言い張る兄弟がいた場合、残りの兄弟姉妹としてはどう対応すればいいのでしょうか。
 
「俺は長男だから!」と主張する兄弟がいた場合の相続について、那賀島弁護士に伺いました。
 

働かない弟が「長男なので、すべての遺産をほしい」と言いだして困っています…

私は三人姉弟の長女です。
弟と妹が1人ずついますが、そのうちの1人(弟)は病気で働けず、同居する親に生活の面倒を見てもらっていました。
老齢の両親は実家のそばに住む妹夫婦が面倒をみており、弟は一切何もしていないません。
ところが、はじめに母親、次に父親が相次いで亡くなった後、弟が「俺は長男だし、親父から土地も実家の建物も全部もらう約束をした」と言い出し始めて困っています。
約束といっても口約束らしく、遺言書はありません。
私は遠方に住んでいて親の介護もしておらず、また働けない弟が可哀想でもありますので、遺産は多めに弟にあげてもいいと思っています。
が、さすがに「全部よこせ」というのは酷いと思うし、何より介護をしてきた妹夫婦が可哀想です。
亡くなった両親に申し訳ないので、なんとか穏便に相続の話し合いを済ませたいと考えていますが、どのように相続手続きを進めればいいでしょうか。
なお、妹は当然のことながら、弟の態度に激怒しています。
ちなみに財産は現預金3千万と不動産(自宅土地建物・農地)です。
 

長男だから全部もらえる、という言い分は通るのか

ーこの事例では、「長男だから全部遺産は俺のものだ」と相談者さんの弟は主張しているようですが……。
 
これは、非常によくあるパターンですね。
現代の民法の規定を理解されていない方というのは一定数いらっしゃいます。
「家督相続」なんて言葉が出てくるような人もいますから。
長男だから当然全部もらえる、という人はまだまだいらっしゃいますよ。
特に地方だと、そういう雰囲気が根強く残っていますね。
 
ー私も地方出身ですので、そのあたりの感覚はなんとなくわかります。でも、実家に住んで親に生活の面倒を見てもらって、しかも介護もせずに遺産だけ全部よこせ、というのは、さすがにないんじゃないかと思うんです。
 
そうですね。
そういう場合の相続は時間がかかりますね。
そういう考え方をしている方が相続人の中にいると、当事者同士で話し合いを進めるのは難しいので。
弁護士なり裁判所なりに間に入ってもらって、専門家に「あなたの考えが間違っているんですよ」と説得してもらうしかないのではないでしょうか。
自分の考えが間違っているかもしれない、という発想を持ってもらうのが大切です。
専門家が丁寧に説明すると、納得してもらえることも多いですね。
自分の場合、相手の方に「あなたも弁護士をつけたらいいのでは」とすすめることも多いですよ。
そうすれば、相手方の弁護士が「あなたの言い分は通らないかもしれない」と説得してくれますので。
 
ーなるほど。相手方の弁護士に説得してもらうんですね。このケースだと、相談者さんは病気で働けない弟の将来を心配する気持ちと、介護を頑張った妹の味方をしたい気持ちで板挟みになっているようですが、何か良い解決法はないのでしょうか。
 
そうですね。
とりあえず自分の法定相続分を主張しておいて、自分の相続分を弟さんに譲ってあげるというやり方は1つ考えられると思います。
それなら、妹さんの権利を害さずに済むため、妹さんからも文句は出にくいのではないでしょうか。
あとで贈与すると税金の問題がありますので、遺産分割時に対応するのがいいかな、とは思いますが。
 
あとはこのケースだと、妹さんの寄与分の問題もありますね。
本当は遺産分割で、妹さんに配慮してあげられればいいんでしょうけれども、弟さんみたいな方がいるとそれも難しいかもしれません。
当事者で話し合って、納得できないようであれば家裁の調停手続きに移行するしかないのかな、と思います。
調停手続では、調停委員の方が弟さんに対して「あなたの考え方は間違っていますよ」と言ってくれるでしょうし、妹さんが寄与分のことを持ち出したら、「こういう具体的な主張をしてくださいね」と話を整理してくれると思いますので。
 
兄弟が複数いて、それぞれ考え方が違うというケースは本当に揉めやすいんです。
この場合は強制的に話し合いが進むような方法を考えるしかなくて、それはやはり調停なのだろうと思います。
 
ー専門家に相談しても話し合いが進まないようであれば、もう調停に行くしかないと。
 
その方が結局早いというケースが多いです。
弁護士が入って協議案を作って、それでもまとまらないような場合は。
その時点でこじれているので、さっさと調停に入ってしまったほうが早期解決につながりますね。
 

口約束で遺産をもらう約束をしても意味はない!?

ー今回のケースでは、相談者さんの弟にあたる方は、父親から「遺産をもらう約束をした」という主張もしているようですね。こうした弟さんの主張に、法的な意味はあるんでしょうか?
 
口約束で遺産をもらう約束をした、と主張する人が現れる。
これも比較的よくある話ですね。
 
しかし、いくら本当に遺産をもらう約束があったとしても、それがただの口約束で遺言もない、というのであれば故人の意思は尊重されませんので……もし「口約束で遺産をもらう約束をした」という方がいるのであれば、日本の裁判所の考え方を説明して納得してもらうしかないと思います。
 
それでも「いや、贈与があった」と向こうが言ってくる場合は、客観的な証拠も踏まえながら「じゃあ、なぜ贈与があったのに、土地の登記を移してないんですか」といったツッコミを入れていくことになるでしょうね。
 
ーなるほど。遺言がないと、遺産をあげる約束をしても無意味なんですね。
 
死因贈与といって、「自分が死んだら財産をあげる」という契約をすることもできるんですよ。
でも「こういった契約をした」ということをきちんとした契約書に残すくらいなら、みんな遺言を書く。
 
ーたしかに…契約書を作るくらいなら、遺言を書いた方が早そうです。
 
実際には、親が「長男に全部遺産をあげる」という内容の遺言を書いてしまって、あとでトラブルになることも多いんですけどね。
他の子どもの遺留分(最低限の遺産を受け取れる権利)を侵害してしまうような遺言がある場合、これは非常に揉めやすい。
 
ー遺言があったほうが確かにいいけれども、遺言があれば大丈夫だというわけでもないんですね。
 

弁護士からひとこと

特に地方では、まだまだ「長男は特別だ」という風潮が根強くあるように感じます。
 
地方在住の両親の傍らに残った子どもと都会に出た子どもとの間での軋轢、長男とそれ以外の子どもの対立というのは、今後も増えていくのではないでしょうか。
 
こうしたケースにおいて、相続トラブルを防ぐためには、まずはご両親側の準備が大切だと思います。
ご両親の側から子どもたちに対して相続についてざっくばらんに話してもらう、みんなが納得できるような内容の遺言を残す、といったことが必要です。
 
もちろん、これはご両親が動かなければできないことなので、子ども側でどうこうできる話ではありません。
ですので、子どもの側としては、ご両親が元気なうちに、きちんと意思表示をしてもらうということが大切だと思います。
 
また、相続が発生した後であれば、できるだけ早く弁護士に相談して、「どんなふうに揉めているのか」を伝えるのが早期解決のポイントになってくるのではないでしょうか。
 
プロの目を通すメリットは、誰の主張が法的に正しいのかがチェックできることです。
 
相手方、あるいは自分自身が何かしらの勘違いをしており、その結果ムリな主張がなされている可能性もあります。
誰の言い分が筋が通っているかが明らかになることで、話し合いがスムーズに進み出すケースも少なくありません。
 
もし気になること、不安なことがありましたら、早めに弁護士にご相談いただければと思います。

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