遺言の内容に納得できない!遺留分を請求したい【弁護士解説】
故人の遺言が出てきたものの、その内容が特定の誰かに「遺産を全部あげる」というものだったとしたら……。
このような遺言がある場合、「弁護士のところに話が持ち込まれた時点で、そのまま事件化する可能性が高い」と那賀島弁護士は言います。
内容に問題がある遺言が発見された場合、相続人としてはどう対処すればいいのでしょうか。
意外とありがちな「遺言」をめぐるトラブルについて伺いました。
事例
私は30代の男性です。
今は結婚し、妻子とともに生活しています。
先日、父が亡くなり、相続が発生しました。
父は私の母と離婚後、別の女性と再婚し、その女性との間に子どももいるようです。
父が亡くなったことはその女性からの連絡で知ったのですが、「妻に全部財産を残す」という遺言があるようです。
父は事業で成功し、裕福な暮らしをしていたようで、異母兄弟にあたる子どもも親にマンションを買ってもらうなど恵まれた生活を送っていたようです。
私としては、離婚後の母親が苦労してきたのを間近で見てきましたので、今回の遺言の内容には到底納得ができません。
自分の子どものためにも、もらえるものはしっかりもらいたいと思います。
できるだけ多く遺産をもらうためにはどうすればいいでしょうか。
「◯◯に全部あげる」という遺言が出てきたら
ー親が再婚、さらに遺言で後妻に遺産を全部と。
今回の事例もなかなか大変にモメそうなケースのように見えますが……。
でも、よくありますよ。
ーよくあるんですか!?
めちゃくちゃよくあります。
私が知る範囲でも、「こんなとんでもない内容の遺言が出てきたんです。
内容に納得できません」というご相談はとても多いです。
もちろん、その逆パターン、「遺言があるのに、他の相続人に文句をつけられて困っている」というご相談もあるんですけど……。
ーなるほど。
ちなみに、今回の相談者さんのようなケースだと、どうすればいいんでしょうか。
「◯◯に全部遺産をあげる」という遺言があったからといって、遺言を書いた人は遺産を全部好き勝手に処分できるわけではありません。
というのも、法定相続人には、遺留分といって、最低限の遺産を受け取る権利が認められているんですね。
ーああ、よかった。
遺言で無視されてしまっても、遺産はもらえるんですね。
遺留分って、遺族の生活保障的な意味合いもありますからね。
遺留分を侵害するような遺言が出てきた場合、侵害された側は、遺言によって多く遺産を受け取った人に対して、基本的には遺留分相当額のお金を請求することができます。
これを遺留分侵害額請求といいます。
ーじゃあ、今回の相談者さんも、父親の再婚相手に遺留分を請求すればいいんですね?
そうですね。
今回は明らかに遺留分を請求できそうなケースだと思いますし、それで解決できる部分も多いのではないでしょうか。
遺言と遺留分の問題はセット!?
ー先ほど、先生がこの手のトラブルは非常に多いとおっしゃっていましたが、遺言があると遺留分の問題って起きやすいんでしょうか?
もちろん、遺留分の問題が起きないように配慮された遺言もたくさんあると思いますよ。
でも、そういう場合はそもそも事件化しないんですね。
ーなるほど……。
今回のように問題に内容がある遺言が出てきてしまった場合の事件化率は相当高いと思います。
というのも、遺言を作っている方って、それなりにお金がある人が多いんですよ。
それだけに、「◯◯に全部」という遺言が出てきてしまうと、相続人としては不満が溜まりやすいですよね。
「お金があるのに、自分がもらえないのはおかしいじゃないか」ということで、遺留分を請求すると。
ーちなみに、先生がこれまで見てきた遺留分絡みの事件の中で、多かったパターンはどんなものでしょうか。
そうですね。
一番多いのは「長男に全部あげる」というパターンでしょうか。
次点がステップファミリーが絡むパターンです。
あとは、「兄弟に遺産をあげる」という遺言もよく見ますね……。
ー1位「長男に全部あげる」、2位「ステップファミリー絡み」、3位「兄弟に全部」ということですね。
それぞれ深堀りできればと思うのですが、まず[「長男に全部」パターンについてはどうでしょうか。
これは特に地方では多いケースですね。
「長男が家の跡取りだ」という感覚を持っている方は、今もそれなりにいらっしゃると思います。
ー特に地方だとそういう雰囲気はありますよね。
2位の「ステップファミリー絡み」パターンは……?
これは、ステップファミリーというよりは、どちらかというと「今のつれあいに全部渡す」というイメージが近いかもしれませんね。
法律婚なのか内縁なのか、愛人なのか、このあたりはケースバイケースだと思うんですが。
前の配偶者との間に子どももいるのに、今のつれあいに遺産を全部あげてしまうと。
ーまさに、今回の事例のようなケースではないですか! 3位の「兄弟に全部」パターンはどうでしょうか。
個人的に、シチュエーションを想像しにくいんところがあるんですけれども。
これは、自分の実子が亡くなっているケースを想像するとわかりやすいと思います。
実子が亡くなっていて、孫がいる。
この場合、本来であれば孫が相続人になります。
ところが、孫は会いに来てくれない。
実際に自分の面倒を見てくれたのは、実の妹や弟であると。
ーなるほど、これはたしかに人情としては、お世話になった家族に残したいですよねえ。
それで、「自分の兄弟に全部」になるんですね。
そういうことですね。
それで、孫の側が遺留分を請求すると。
ー孫から、おじいちゃんおばあちゃんの兄弟姉妹への遺留分侵害額請求ですか……。
なかなか闇が深い話ですね……。
遺留分の問題が出てきた場合の流れ
ーもし遺留分の問題が発覚した場合の、事件の見通しについて教えてください。
まず相談時に「遺留分が侵害されている」となった場合については、「このまま請求しましょう」という方向で話が進むことが多いですね。
というのも、遺留分の請求って1年の期間制限があって、遺留分が請求できそうな状況であればすぐに動かないと間に合わないんですよ。
しかも請求すれば、こちらの言い分が通る可能性が高いわけで、依頼者としては遺留分の請求をするほうが明らかに得というケースが多い。
ーなるほど……。
主張されれば相手としても払わざるをえないので、特に当事者双方に弁護士がついた場合はスムーズに話が進みますね。
遺言の有効性や不動産の評価額で争っていなければ、相手に内容証明を送って、協議をして……というステップで解決できるケースが多いように思います。
弁護士からひとこと
遺留分の問題が出てきた場合、当事者だけで解決を図るのは難しいケースがほとんどだと思います。
遺言があることで、相手としても心情的に妥協しにくくなってしまうところがあるからです。
また、相手方が財産の内容を開示してくれなかったり、嘘をついたりすることもあります。
実際に弁護士として、そうした事例に何度も遭遇してきました。
遺留分の請求には1年間の期間制限があるため、早めに動かないと時間切れになってしまうリスクがあります。
納得の行く形での解決を目指すためにも、早めにご相談に来ていただければと思います。
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