【地方親×都市圏の子ども】弁護士に聞く〜相続で困らないために知っておくべきこと〜
地方在住の子どもたちが就職や進学をきっかけに、都市部や首都圏に出て行く。そんな光景は珍しくありません。今や親子が離れて暮らすことで大きな不便を感じることはあまりないかもしれません。ところが物理的に離れた場所で相続が発生すると、さまざまな不都合が生じることが。そこで今回は当事務所の那賀島弁護士に「離れて暮らす家族や親戚で発生した相続のトラブル」について伺いました。
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親の近くに住んで世話をしていたことを理由に遺産を多く請求することはできる?
——「地方で暮らす親、近居の子ども、都市部で離れている子ども」という家族の形態ではどのような相続トラブルが発生しやすいですか?
遺言書がないと、財産の分割の割合で揉めることが多いですね。遺言書がない場合は、すべての相続人が一同に介して遺産分割協議を行い、財産の分割の割合等を決める必要があります。
そのときに、近くに住む子どもたちは「遠くに住んでいる兄弟より遺産の分割割合を多くしたい」と主張する傾向があります。病院の送迎や細々とした日常の頼み事を聞いていたような距離感であれば「多く遺産をもらってもおかしくない」と考えてしまうんですね。父親が亡くなり、母親と子どもたちが相続人というケースでは母親が「近くにいて面倒をみてくれた長女は多く受け取るべきだ」と主張することもあります。
一方で遠くに住む子どもは、往々にして親から近居の子どもの愚痴を聞かされています。
「お兄ちゃんはいつも金の無心をする」とか「お姉ちゃんは態度が悪い」といった話を親が遠くの子どもにするわけです。
すると遠くに住む子どもたちは「あんなに親を酷い目に遭わせていたくせに多くの遺産を請求するなんてとんでもない!」と考えてしまいます。近くに住む子どもは「私は甲斐甲斐しく世話をして病院の送迎まで手伝っていたのに、遠くでたまに電話をしていた兄弟と同じ取り分しかないのか!」と憤慨し、話し合いは平行線を辿ります。
——実際に「近くに住んでいた親の病院の送迎を助けていた」程度で遺産を多く請求することはできるのでしょうか?
遺産分割協議は話し合いですので、相続人全員が合意すれば「近くに住んでいる子どもへの感謝の意を表して1割ほど多く遺産を渡す」といった結論もあり得ます。ですが相続人全員が合意しなければ、「法定相続分」で相続することになります。
多く遺産を受け取るために相続人ができることは「寄与分」の請求です。寄与分とは相続人が被相続人(今回の場合は親)に対して特別に貢献をした場合に、その貢献した分の金銭を他の相続人に請求できる制度です。「寄与分」が認められるのは、相続人が「無償で親の営む事業を手伝っていた」「要介護認定がおりている親について、介護士に依頼せずに自分が面倒を見ていた」といったケースです。
質問の「親の病院の送迎を助けていた」というレベルのお手伝いが寄与分に相当するかどうかは通院の頻度や親の状態によって判断がわかれます。たとえば「寝たきりで、通常であればヘルパーや介護タクシーのサポートがなければ通院できない状態」の親御さんを自力で毎日病院に連れて行っていたのであればその貢献が「寄与分」として認められる可能性はあります。
一方で「月に一度、自力で公共交通機関での移動が可能な親を病院に連れて行った」といったレベルであれば、「寄与」としては認められにくいでしょう。
長男や長女がすべての遺産を受け取ることはできる?
——「長男や長女、近くで面倒を見てくれた子どもにすべての財産を残す」といった遺言書があった場合、それは有効でしょうか?
遺言書があれば揉めないといいましたが、遺言書が相続人の「遺留分」を侵害している場合には、遺留分を侵害された相続人が「遺留分侵害額請求」を行うことで、法定相続分の2分の1を取り戻すことが可能です。つまり「長男にすべてを相続させる」といった遺言書通りの相続はできないんですね。
今でも「長男や長女がすべて相続すべきだ」といった考えをお持ちの方もいらっしゃいますが、民法では子どもたちの相続分はすべて平等です。「昔から長子が全部相続しているから」と次男や三男といった長子ではない子どもたちが諦める必要はないんですよ。「長男にすべて相続させる」といった遺言があった場合には遺留分侵害額請求を行いましょう。話し合いで解決できないようなら裁判所で主張していくこともできます!
山林や田畑だけ相続したくない!どうすれば?
——地方では山林や田畑といった宅地や商業地以外の地目の土地を所有していることも多いかと思います。そういった相続財産はどうすればよいのですか?都会に住んでいる子どもたちは管理や耕作ができないので、相続したくないのでは?
山林や農地といった相続財産は「押し付け合い」になるケースが多いですね……。山林は買い手が付きにくいですし、農地は農地法の関係で誰にでも売却できるわけではない。みなさん困っていますよ。農地であれば隣地に買ってもらうのが現実的な解決策です。山林は「1円買い取りサイト」のようなサイトで引き取ってもらえる人を探すとか。
——山林や田畑だけ相続を放棄することは可能ですか?
特定の財産だけを相続放棄することはできません。相続放棄は「すべての財産の相続を放棄したいとき」に使える手続きです。「親は財産よりも借金が多いから」と相続放棄をご相談いただくことは少なくありません。ですが「山林だけを相続したくない」といったニーズに応える手続きは2022年現在は存在しませんね。
ですが「相続土地の国庫帰属制度」という新しい制度が2023年4月27日にスタートします。これは「相続した要らない土地」を国に引き取ってもらう制度です。申請が認められれば当該土地の所有権が国に移されます。
国に要らない土地を引き取ってもらうためには申込みと国による審査が必要です。また10年分の土地の管理費に相当する「負担金」を支払わなければなりません。ですがこれまでのような「どうすればいいのよ」と途方に暮れるような事態は減るのではないでしょうか。当事務所でも制度の開始に伴うご相談を受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
地方に住む親×離れて暮らす子どもたちが相続で揉めないためにできること
——地方で暮らす親と都会で暮らす子どもの相続は揉める要素が多そうですが、どうすれば揉めずに相続を進められますか?具体的な対策を教えてください。
大前提は親たちが元気なうちにコミュニケーションを取って話し合っておくことです。子ども世代から働きかけて遺言書を作成するようにしておくとよいと思いますよ。弁護士に遺言書の作成から遺言の執行までをお任せいただければ、親も子も手間がかからないです。
親が痴呆症を発症するなどして認知機能が不安定になってから、遺言書を作成すると「遺言能力がない」として、遺言書の無効を主張されるおそれがあります。痴呆症だから必ずしも「遺言能力がない」と判断されるわけではありません。
しかし相続人同士で遺言書の有効性について意見が割れる場合には、介護記録を請求して「遺言無効確認調停」や「遺言無効確認訴訟」を申し立てるなど、手続きは複雑化し、解決までに長い時間を要することもあります。
そうならないためにも「親が元気なうちに話しておくこと」が大切なのです。
——他にも相続で家族が揉めないためにできることはありますか?
子どもたちが都市圏で暮らし、親が地方で暮らしている家族は財産を現金や預貯金といった「分割しやすい形態」に変えておくことが大切です。子どもたちは地方の不動産を残されても処分に困ります。
また「農地が欲しい」「山林が欲しい」「山中の宅地が欲しい」といったニーズがある子どもがいる場合には、土地の価値を明確にしておいてあげるとよいでしょう。固定資産評価証明書などで「この土地はそんなに価値がないんだよ」と可視化しておくのです。地方の山林や農地は広大であっても、非常に価値が低いことが多いですよね。
ですがそれを知らない子どもたちは「あいつは広い土地をもらったから僕は預貯金を全部相続する」といった不平等な遺産分割を主張しかねません。
「財産とその価値」をあらかじめオープンにしておくことが大切ですね!
物理的に距離が離れている相続は弁護士にご相談を!
今回は「地方に暮らす親」と「都市部で暮らす子ども」の相続トラブルについて当事務所の那賀島弁護士に話を聞きました。最後にポイントをまとめておきましょう!
- ・親が元気なうちにコミュニケーションをとって遺言書を作ってもらおう!
- ・遺言書がない場合、基本的には子どもの相続分は平等
- ・子どもに特別な貢献があった場合は「寄与分」が認められることもある
- ・「長男にすべてを相続させる」という遺言書がある場合は、「遺留分侵害額請求」で遺留分を請求できる
- ・「山林や農地だけを相続しない」という手続きは存在しない
- ・2023年4月27日以降は「相続した不要な土地」を国に引き取ってもらう制度がスタートする
- ・相続財産はできるだけ現金や預貯金といった分割しやすい形にしてもらおう
- ・日頃から相続財産についてオープンに話しておこう
物理的に親と子や兄弟同士が離れていると、相続の話し合いや日常のコミュニケーションが難しくなります。揉めないためにも日頃から話し合っておくことが大切です。すでに相続が発生して揉めている方や、これから揉めないために遺言書を作成しておきたいとお考えの方は蓮田総合法律事務所までご相談ください。弁護士の那賀島をはじめとして、スタッフ一同が誠心誠意対応いたします。
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