モメそうな相続こそ遺言執行者を【弁護士解説】 |埼玉県、蓮田市・白岡市の相続に経験豊富な弁護士

モメそうな相続こそ遺言執行者を【弁護士解説】

資産が多い、相続人や利害関係者が多数いる、家族関係が複雑だ……こういった事情を抱えた相続は、たとえ遺言を作ったとしても相続の手続きが紛糾しがちです。
そこで、重要となるのが、遺言の内容を粛々と実現してくれる遺言執行者の存在です。
遺言執行者とは何者なのか、どんなときに必要なのか。
遺言執行者が必要となるケースやその仕事内容について那賀島弁護士に伺いました。
 

事例

私は70代の男性で、10年前に妻を亡くして1人暮らしをしています。
子どもは3人いますが、それぞれ独立し、長女と次男は遠方で家庭を持って暮らしています。
長男は家業である建設業を継いでくれています。
それなりに事業を手広くやっていて金融資産だけでも1億を超えること、さらに不動産が多く資産に含まれることから、今のうちに遺言を書いておこうと考えています。
ただ、いくつか家族関係をめぐって懸念があり、どのように遺言を書けばスムーズに自分の意思を相続に反映できるのかわかりません。
 

  • ①長男と次男の折り合いが悪いが、事業との兼ね合いもあるので長男に多くの遺産を残したい。
  • ②現在内縁関係にある女性に不動産の一部を遺贈したい。
  • ③昔付き合っていた女性の間に認知していない子どもがいる。家族の手前、これまで認知はできなかったが、せめて遺産の一部は渡してあげたい。

 

問題山積み!荒れ狂う相続を乗り切るカギは遺言執行者にあり

こういう入り組んだケース、弁護士のところに相談に来る事案に限っていうと、本当に多いです。
 
ー内縁関係の方がいて、法律婚の配偶者以外の方との間に子どももいて、でも財産は跡継ぎに多くあげたい、という。
 
事業をやっている方だとありえるケースではあります。
ご本人が亡くなった後に遺言をめぐってモメるパターンも含め、結構ある印象ですね。
 
順番に問題になりそうなポイントを見ていきましょう。
 
まず、事業をやっている方だと、おそらく事業が会社組織になっている場合が多いと思うんですね。
事業を会社でやっているとなると、会社の株式の価格がいくらなんだという点が問題になってくる。
もし株式の価値が高いと遺産全体に占める割合が大きくなってしまいます。
このケースだと、長男が次男に遺留分を請求されてしまうリスクがあります。
遺言だけでは手当できない可能性がありますので、ご本人が健在なうちに事業承継という形で弁護士や税理士に相談された方がいいと思います。
もちろん、遺言を書くことが前提ではありますが。
 
ーなるほど。
 
内縁関係の女性や認知していない子どもに財産の一部を遺贈したい。
こういう方もいらっしゃいますよね。
これは不動産が財産のうちどれくらいの割合を占めているかにもよるんですけど、本人の希望通りにやってしまっていいのかな、と思います。
遺留分の問題が起きないように遺言で配慮しておけば、法的な問題は起きにくいでしょうしね。
 
ただ、内縁関係にある女性のことを他の相続人がよく思っていない場合もあります。
こうしたケースでは相続人に手続きを任せていると、遺言の内容をきちんと執行してもらえないかもしれません。
 
そこで、「遺言執行者が必要になるのでは?」という話になってきます。
 

遺言執行者とは?

遺言執行者は、その名の通り「遺言を執行」、つまり遺言の内容を実現するために必要な手続きをしてくれる人のことをいいます。
 
ー遺言執行者って、相続人以外の人でもなれるんですか?
 
遺言執行者を誰にするかは、遺言を残す本人が遺言の中で指定します。
相続人を遺言執行者にしてもいいですし、それ以外の第三者、たとえば近所の人や親族、友だちを遺言執行者に指名しても大丈夫です。
もっとも、遺言って遺言を作成する本人や家族のプライバシーにも関わるデリケートな書類ですし、財産の内容も全部見られてしまうことになるので。
信頼できる第三者に頼む必要があるでしょうね。
その点、弁護士や司法書士には守秘義務がありますので、頼む側もお願いしやすいと思います。
 
ー相続人以外の人に遺言執行者を依頼した方がよいときってどんな場合でしょうか?
 
まず、相続人と敵対関係にある利害関係人がいる場合ですよね。
こうしたケースでは相続人を遺言執行者に指名すると、遺言の執行をしてもらえない可能性がありますので。
相続人以外の人を遺言執行者にしていると相続の手続きがスムーズに行きやすいと思います。
逆に、「○○に遺産を全部相続させる」といったシンプルな内容の遺言だと、相続人が遺言執行者になっているケースも多いですね。
 
ーなるほど。
遺言執行者に相続の手続きを任せるメリットにはどんなものがありますか?
 
相続手続きの責任者が明確になるところですね。
また、登記をはじめ遺産分割に必要な手続きは遺言執行者が責任を持ってやってくれますので、相続人としては手続き関係はすべて遺言執行者におまかせできます。
そういう意味では、相続人にとってもメリットがありますね。
基本的には、遺言執行者がきちんと仕事をしてくれているかどうかだけ注意していればいいですから。
遺留分の問題などがなければ、関係者にとっては相続の手続きがシンプルになると思います。
 
ー逆に、デメリットのようなものはありますか?
 
デメリットはあまりないと思いますが、しいていえば費用がかかる可能性があることでしょうか。
士業の先生が第三者として遺言執行者になる場合、その分の報酬を払うことになりますので。
士業の先生を遺言執行者にしているケースだと、遺言書で執行者の報酬まで定めておくことが多いように思います。
 
ーなるほど。
ちなみに親族がなった場合も報酬って払わなければならないんですか?
 
財産をもらえる相続人が遺言執行者になるケースならば、特に払う必要はないと思いますね。
それで「執行者になるなんてイヤです」となったら、執行者に指名された側には断る自由がありますので。
 
ー遺言執行者って断れるんですね……!?
 
そうなんです。
やるかやらないかは遺言執行者としての指名された人の意思に任されているんですよ。
 
ーちなみに、断られちゃった場合ってどうなるんですか。
 
この場合は執行者がないものとして、相続人全員で手続きを進めていくことになります。
場合によっては、利害関係者の請求によって家庭裁判所で遺言執行者を選任したりすることになります。
 
ーもめそうなケースだと相続自体が進まなくなりますね。
となると、特にもめる事案であれば、最初から第三者を指定しておいたほうがよいということでしょうか。
 
ーそれがいいと思います。
モメそうな遺言だったら早めに士業の先生に相談するべきだと思いますし、執行者も遺言を作成する時点で決めてしまった方がよいでしょうね。
弁護士が遺言作成の依頼を受ける場合、弁護士がそのまま遺言執行者になるケースがほとんどです。
 

遺言執行者を決めておいた方がいい場合

ー最後に、まとめとして、遺言執行者を決めておいた場合についてお伺いできればと思います。
ここまでは遺贈をめぐって相続人とモメそうな利害関係者がいる場合を念頭に置いてきましたが、他にも決めておいたほうがいい場合はありますか?
 
そうですね。
まず、関係者が多数いる場合は、その時点で遺言執行者を決めておいた方がいいと思います。
利害関係者がたくさんいると、その分調整が大変になってしまいますので。
逆に、おひとりさまで相続人がいないという場合も遺言執行者を決めておくといいでしょう。
遺言執行者がいれば、自分が亡くなった後の手続きを任せられますので。
誰かに遺産を遺贈したいという場合もスムーズに手続きが進められると思います。
 
そのほか、遺言で認知したい子どもがいる場合など、遺言執行者がいないと進められない手続きもあります。
こうした場合も遺言執行者が必要になりますね。
 

弁護士からひとこと

遺言執行者を決めておく最大のメリットは、遺言作成者の意思が反映された形で相続手続きが進められることだと思います。
 
モメそうな相続であっても遺言執行者がいれば、手続き自体はスムーズに進むことが多いです。
実際、弁護士として何度か遺言執行者になってみて、それは実感しているところです。
 
多額の資産がある、利害関係者が多い(逆に相続人がいない)といった相続は、それだけでも相続の手続きが大変になります。
遺言作成を検討される際には、併せて遺言執行者についてもご相談いただければと思います。

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