「亡くなった親戚の相続人がゼロ問題|財産を相続するためにはどうすればよい?【特別縁故者の申立て】」
国立社会保障・人口問題研究所によると、日本人の50歳時点の未婚者の割合は男性で23.37%、女性は14.06%。
ここには離婚や死別による独身者は含まれません。
未婚=子どもを持っていないという訳ではありませんが、この中の相当数が生涯子どもを持たない方だと推測できます。
結婚もせず、子どもも持たないことによるさまざまな問題が取り沙汰されていますが、相続の現場でも課題が生じることがあります。
それが「相続人がいない問題」です。
今回は被相続人が死亡した際に法定相続人がいないときにどうなっちゃうの?という素朴な疑問から、財産を相続するための具体的な方法について、那賀島弁護士に伺いました。
引用元:P_Detail2021.asp
相続人が存在しない場合は国庫に帰属してしまう
——そもそも相続人はどうやって決まるのでしょうか?
民法によって、相続順位が規定されていて、それに従って相続人が決まります。
民法で定められた相続人のことを法定相続人と呼びます。
また死亡して財産を残す人のことを「被相続人」と呼びます。
たとえば、父親が死亡して奧さんと子ども2人が残された場合には、被相続人は父親で奥さんと子ども2人が相続人となります。
——相続人が存在しない事例はどうなってしまうのでしょうか。
相続人が存在しないことを「相続人不存在」といいます。
相続人が存在しなくても遺言書が残されていればそれに従って遺産を分割できます。
遺言書がなければ所定の手続きを経た上で、財産は国庫に帰属することになりますね。
産経新聞の報道によると2020年度に国が引き取った財産は603億円。
ほんの4年で1.4倍にも増えたといいます。
引用元:20210204-UO2DTA5NONN77DZCN6HNAT5N2M
——「近所に住む遠い親戚の身の回りの世話をしていたが、死亡してしまった。親戚には法定相続人がいない」というケースについて質問です。世話をしていた人が、死亡した親戚の財産を相続する方法はありませんか?
すでに親戚が死亡してしまった場合には、「特別縁故者の申立て」という手続きをすることになります。
まだ生きていれば遺言書を作成してもらったり生前贈与したりといった方法があるのですが……。
——特別縁故者の申立てを行うために必要な手続きはありますか?
特別縁故者の申立てを行う前に、「相続財産管理人の選任申立て」を行う必要があります。
これは相続人が存在しないことを確定するために必要な手続きです。
相続財産管理人には弁護士が選任されることが多い傾向です。
相続財産管理人が選任されると、家庭裁判所が「官報公告」によってそれを発表します。
そのまま、相続人が名乗りをあげなければ「債権申出の公告」を行います。
これは簡単にいうと「被相続人にお金を貸している人等を探す手続き」です。
この期間が満了すると債権者への弁済が開始されます。
それでもなお、相続人が現れなければ家庭裁判所が相続財産管理人の請求で「相続人捜索の公告」を行います。
相続人捜索の公告の期間は6ヶ月です。
この結果として、相続人が出てこなければようやく「相続人不存在」が確定し、特別縁故者の申立てが可能となります。
——長い道のりですね。ここまでの流れをまとめるとこうなりますか?
【特別縁故者の申立てを行う前に必要な手続きの流れ】
手続き名 | 概要 | 期間 |
---|---|---|
相続財産管理人選任の申立て | 弁護士などを財産の管理人として選ぶ手続き。利害関係者が家庭裁判所に申し立てる。 | |
相続財産管理人選任の官報公告 | 家庭裁判所が行う。 | 2か月間 |
債権申出の公告 | 相続財産管理人が行う。 | 2ヶ月以上 |
相続人捜索の官報公告 | 家庭裁判所が行う。 | 6ヶ月以上 |
そうですね。ここまでで1年以上要することもあります。
——特別縁故者の申立ての手続きはどのような流れで進みますか?
特別縁故者の申立てが受理されると、家庭裁判所で審議されて特別縁故者に該当するかどうかが判断されます。
裁判所は特別縁故者の申立てができる人を以下のように定めています。
- ・被相続人と生計を同じくしていた者
- ・被相続人の療養看護に努めた者
- ・その他被相続人と特別の縁故があった者
これらに該当する人が、「申立書」と特別縁故者であったことを示す資料を裁判所に提出します。
質問にあるような「近所に住む遠い親戚の世話をしていた」というケースでは、療養看護に努めた方や身の回りの世話をみていた方が該当する可能性があるでしょう。
——特別縁故者の申立ての手続きは、手続きを開始してから結果がわかるまでにどれくらいの時間がかかるのでしょうか。
家庭裁判所の混み具合にもよりますが、審議がスタートすれば概ね1ヶ月ほどで終わると思います。
家庭裁判所は混雑していることが多いので2ヶ月から4ヶ月かかることもあると思っておいた方がよいでしょう。
特別縁故者として認められるために必要なことは?
——どういった資料があれば家庭裁判所に「特別縁故者」と認められやすいでしょうか。
画一的な様式は定められていません。
双方の関係性がわかる資料や、どのように生活を助けていたかがわかるような資料があるとよいでしょう。
日記やメモ書きのような記録が特別縁故者であったことを示す証拠になりやすいです。
ブログやTwitterといったインターネット上の記録でも証拠になります。
——すでに被相続人が死亡している場合、残された方はどのような証拠を用意すればよいですか?
被相続人のためにお金を支払ったという記録は、大きな証拠になりますので、被相続人の口座に振込をしたことがわかる通帳やネットバンキングの入出金明細を用意するとよいでしょう。
日常的にお世話をしていたのであればいつ自宅を訪問したとか、病院に付き添ったというような具体的な日付がわかる記録を残しておくとよいですね。
あとはお世話をしていることがわかる動画や写真も証拠になり得ます。
「裁判所に提出する証拠」と聞くと、なにか決定的なものが1つ必要なのかとお考えの方が多いのですが、実際には複数の証拠を組み合わせることで説得力を持たせます。
ご本人は「たいしたものじゃない」と思っていても、資料になり得ますので関係しそうなものは集めておくとよいでしょう。
——特別縁故者として認められたら財産のすべてを受け取ることができますか?
ケースバイケースです。
財産の額や貢献の程度や関係性によって裁判官が判断します。
私が担当した案件では、財産の全額が分与されることが決定しました。
しかし中には財産の一部しか認められないケースもあります。
亡くなった方の財産があまりにも多い場合には、一部になってしまうこともあるようです。
——特別縁故者の手続きを弁護士に依頼するメリットはありますか?
特別縁故者の申立てについては、それほど難しい手続きではありません。
しかし、こういった裁判所での手続というのは、裁判官を説得する作業です。
説得のための資料を提出できなければ認められません。
とくに特別縁故者の制度は、裁判官の裁量の上に成り立っています。
したがって法律的な視点で客観的に見て、筋が通った主張をする必要があります。
ところが、法律を専門的に学んでいない方にとっては、なかなか難しいのです。
弁護士にご依頼をいただければ、裁判官が納得しやすいような証拠を用意できることが多いです。
実際に私が特別縁故者の申立ての依頼を受けた案件では、不動産と預貯金の合計千数百万円以上の分与が認められたものがありました。
「相続人不存在」になりそうな知人・親戚がいる場合に生前にやるべきこと
——相続人が存在しない知人や親戚がまだ生きている場合に、その財産を取得するためにできることはありますか?
特別縁故者の申立てによって財産をの分与を受けたいのであれば、やはり日記を残しておくことは重要です。
被相続人側に日記やメモを書いてもらえるとさらに効果的でしょう。
動画を撮影しておいても良いと思います。
お金を渡すところを撮影しておくとわかりやすいですね。
まだ被相続人が生きている場合には特別縁故者を目指すよりも、遺言書を書いてもらうことや生前贈与してもらうこと、養子縁組を受けるといった手段のほうが現実的だと思います。
そうすることで、特別縁故者の申立てを経ることなく、ダイレクトに財産を受け取ることができます。
意思がしっかりしているのであれば、弁護士に依頼して確実な遺言書を残しておくと安心ですね。
弁護士に依頼をすれば、法的に有効な遺言書を作成できますし、財産の額が多い場合には、弁護士と税理士が連携して贈与税に配慮いたします。
まずは弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。
特別縁故者の申立てを検討しているなら弁護士にご相談を
今回は那賀島弁護士に、「相続人が存在しない人が死亡した場合の財産」について伺いました。最後に今回の記事でわかったことをまとめておきます。
- ・相続人が存在しない方の財産は、最終的に国庫に帰属する
- ・相続人が存在しない方に対して、生活の面倒や介護といった貢献をしていた方は「特別縁故者の申立て」によって財産のすべて、もしくは一部を受け取れる可能性がある
- ・特別縁故者の申立てを行う前に、「相続財産管理人選任」の手続きが必要
- ・特別縁故者の申立てには、亡くなった方との関係性がわかる資料が必要
- ・相続人が存在しない方が生きているのであれば、遺言書を書いてもらうとよい
- ・特別縁故者の申立ての手続きは弁護士に依頼することで、説得力のある資料を用意できる可能性が高い
当事務所では、相続財産管理人選任の手続きや特別縁故者の申立ての手続きといった相続に関するご相談を広く受け付けています。
弁護士の那賀島をはじめパラリーガルたちも精一杯お役に立てるように尽力いたしますので、お気軽にお問い合わせください。
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