交通事故で家族が亡くなった場合の相続【弁護士解説】
交通事故で家族が突然亡くなった……。
その場合、残された遺族はどうすればいいのでしょうか。
実は、交通事故で亡くなった方の相続では、「相手方の保険会社との関係をどうするかをはじめ、通常の相続以上に難しい問題が起きやすい」と那賀島弁護士はいいます。
誰が故人の代わりに相手方に事故の責任を追求できるのか、具体的な手続きはどんなふうに進んでいくのかーー今回は交通事故で亡くなった方の相続で起きうる問題について那賀島弁護士に伺いました。
事例
私は34歳の専業主婦です。
夫が突然交通事故で亡くなりました。
横断歩道を渡ろうとしたところ、赤信号を無視して交差点に突っ込んできた自家用車にはねられたそうです。
正直夫の四十九日が終わったばかりで先のことはまだ考えられないのですが、相手方の保険会社から連絡が来ており、いろいろ手続きをしなければならないようです。
どうすればいいでしょうか。
なお、私は現在妊娠しており、他に夫との間に子どもはいません。
夫の両親は健在です。
そもそも事故の保険金を請求できるのは誰なのか?
ー今回のケースでは、相談者さんと夫との間に子どもがいない、夫のご両親は健在、ただし相談者さんのおなかに赤ちゃんがいるということで、相続という側面から考えると結構複雑な事案ですよね。
そうですね。
ただ、結構よくある事案ではあります。
ーよくあるんですね!?
はい。
この場合、まず問題になるのが誰が相続人になるのかです。
ここで、前提となる相続人の決め方のルールについて、おさらいしておきましょう。
被相続人に妻と子どもがいる場合、妻と子どもが相続人になります。
一方、子どもがいない場合は妻と夫の両親が相続人ということになります。
夫の両親も亡くなっている場合は、夫の兄弟姉妹が相続人になります。
ー子どもの有無で相続の結果が大きく変わってしまうんですね。
はい。
もっとも胎児には相続権が認められていますので、今回のケースでは相談者さんとおなかにいる赤ちゃんが相続人ということになります。
このことは誰が事故の保険金を相手方の保険会社に請求できるのかという話にも関わってきます。
というのも、亡くなられた方が持っている損害賠償請求権を相続人が相続して、その賠償金相当額を相手の保険会社に払ってもらうという仕組みになっているからです。
ーなるほど。損害賠償金を受け取る権利を遺族が相続した結果、遺族が保険金がもらえるということになるんですね。
そうです。
死亡事故の保険金を誰がもらえるのか、という問題はまさに相続の問題でもあるんですね。
それこそ死亡事故の場合、何千万円というお金が動く話になってきます。
今回のように「まだ実子が生まれていなくて……」というケースだと夫の家族とトラブルになってしまうこともある。
以前扱った事件の中にも、妻のおなかに赤ちゃんがいるのにも関わらず、夫の両親が勝手に「自分たちが受取人だから」と主張して保険金の請求を進めていたというケースがありました。
ー赤ちゃんがいるのに……。
夫の家族との関係がよくないと、残念ながらそういう事態が起きることはありますね。
ー実子も胎児もいない場合は、配偶者と配偶者の親もしくは兄弟が相続人になるわけですよね。そうなると、本当は協力して保険会社と交渉したりしないといけないと思うんですが、相続人同士で対立してしまっていると結構大変なのでは……。
そうですね。
なんとか折り合いをつけて手続きを進められるのがベストですが、相続人同士の連携がうまく取れないまま裁判までいってしまうと複雑な話になってくると思います。
そうした事態を防ぐためにも、早めに弁護士にご相談いただくのがいいと思いますね。
そのほか死亡事故に関して起こり得る問題
ー他に、交通事故で家族が亡くなってしまった場合に想定されるトラブルとしてはどんなものがありますか?
まず、加害者側が無保険の場合です。
死亡事故の加害者が任意保険に入っていないケースは結構あるんですよ。
その場合は自賠責保険の手続きを進めつつ、加害者に直接請求したりしなければなりません。
また、加害者が保険に入っているのかどうかよくわからないというケースもよくあります。
その場合、刑事記録などを調べて保険に入っているかどうかを調べないといけない。
ー加害者側の弁護士が動いてくれる、ということはないんですか?
たしかに死亡事故になると刑事事件化することが多いので、相手方に弁護士がつくことは多いです。
が、刑事事件の弁護士は、基本的に損害賠償のような民事の話にはノータッチのこともあります。
もちろん示談交渉との関係で動いてくれるケースもありますが、死亡事故って、そもそも示談が難しいタイプの事件だと思うんです。
人がひとり亡くなってしまっているので、取り返しがつかない。
示談交渉が難しい可能性がある、ということで、加害者についた弁護士の方が積極的に動いてくれるケースばかりではないんですよね。
実際は動いてくれる先生も多いとは思いますけど……。
場合によっては被害者の方で積極的に動かないといけない場面が多々あります。
ーなるほど。こうなるともう、弁護士マターですね。
はい。
一般の方がひとりで手続きを進めることはとても大変だと思います。
もうひとつ問題になるのが、保険会社との関係ですね。
保険会社の担当者が積極的に動いてくれないケースであるとか、保険会社の言い分に納得がいかないケース。
これも弁護士がついて対応するべきパターンだと思います。
実際、保険会社の対応に不満や不安を感じて相談に来られる方も多いですよ。
また、保険会社との関係でいうと、加害者が複数いる場合も問題が起きやすいですね。
たとえば走っていた車が後続車に追突されて、その結果歩行者を轢いてしまったようなケースを想定してみてください。
その場合、加害者は複数いるわけです。
関係者が増えると、交渉しなければならない保険会社の数も増えます。
誰がどれだけ責任を負うのか、という点をめぐって、保険会社との意見も対立しやすいです。
保険会社に請求できるお金と実際の手続き
ー実際に保険会社に請求できるお金としてはどんなものがあるんでしょうか?
葬儀費用など実際にかかったお金のほか、慰謝料、さらに逸失利益が請求できます。
逸失利益は、亡くなった方が元気で働いていたら得られたであろう経済的な利益のことです。
特に若い方、年収の高い仕事についている方だと逸失利益は高く算定されやすい傾向があります。
ただ、保険会社の主張する逸失利益の金額が本当に妥当かどうか、一度弁護士に確認された方がいいでしょうね。
なかには低い金額で示談してしまっているような方もいらっしゃるので。
ご家族が死亡事故の被害にあってしまった場合、基本的に弁護士マターだと考えられた方がいいと思います。
今後の生活のためにもきちんと弁護士に依頼し、適切な金額の賠償金を受け取るべきです。
ー実際に弁護士に手続きをお願いする場合、どんな感じで進むのでしょうか。
まず相手方の素性と保険会社を確認した上で、保険会社に対して、想定できる金額の上限いっぱいでの賠償金を請求します。
ただ、そうなると、保険会社の方から向こうの言い分が出てきますので、そこは先方と協議しつつ適切な金額で話をまとめられるように持って行くという感じですね。
話し合いでの解決が難しい場合は裁判をすることも検討することになります。
弁護士からひとこと
交通事故で人が亡くなった場合、亡くなった本人も家族も相続の準備ができていないことが多く、相続のトラブルも起きやすい状況です。
さらに、保険の関係もあり、相続関係の手続きも複雑化しやすい傾向があります。
保険会社との交渉をはじめ、弁護士がお力になれることが多いケースだと思いますので、早めにご相談いただければと思います。
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