老老介護から老老相続へ|相続人・被相続人ともに高齢者の場合に気を付けることは? |埼玉県、蓮田市・白岡市の相続に経験豊富な弁護士

老老介護から老老相続へ|相続人・被相続人ともに高齢者の場合に気を付けることは?

高齢化社会の到来により、老老介護が社会問題化しているといいます。
令和4年版の「高齢社会白書」によると令和3年10月1日現在の高齢化率は28.9%。
令和元年度の要介護認定者は655万8000人であり、主な介護者の続柄は配偶者と子どもと子どもの配偶者が半数を占めます。
配偶者による介護はほぼ老老介護に該当しますし、子どもであっても要介護認定者が80歳を超えていれば、老老介護になる可能性は大いにあります。
 
老老介護の先にあるのは老老相続です。
老老相続ではどのような問題が生じやすいのでしょうか。
またどのような点に注意すべきなのでしょうか。
那賀島弁護士に老老相続の課題や解決策を伺いました。
 
引用元:
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/gaiyou/pdf/1s1s.pdf
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/zenbun/pdf/1s2s_02.pdf
 

増加する老老介護、その問題点とは

——老老介護の先には老老相続が待っているという話を耳にしました。そういった相談は増えていますか?

体感では非常に増えている印象です。
65歳が相続人というのはまったく珍しくありませんね。
70歳、80歳が被相続人ではなく相続人として相談にお見えになることもあります。
最近のシニアは体がお元気な方が多く、当事務所の階段を登ってくるので、感心することも多いんですよ。
 
——老老相続ではどのような問題が発生しやすいですか。

双方が意固地になってしまい遺産分割協議で揉めるケースが少なくありません。
柔軟さが失われてしまっている部分もあるのでしょう。
たとえ遺言書があったとしても「偽造だろう」とか「あの状態で遺言書を書けたわけがない」といって、遺言書の正当性を争うこともあります。
認知能力がない状態で書かれた遺言書は無効となる可能性があるからです。
したがって、遺言書を書いた時点での認知能力の有無が争点になります。
 
——公正証書遺言でも被相続人の認知能力が問題になりますか?

公正証書遺言は公証役場で公証人が立ち会って作成するわけですから、遺言書の書式や内容が法的に無効とされることはほぼないでしょう。
しかし公証人は被相続人の認知能力まで確実に判断することはできません。
「この内容で大丈夫ですか」と公証人が確認して、被相続人が「はい!間違いないです!」といった受け答えができれば成立することもあります。

実際に公正証書遺言の有効性を争ったこともありますよ。
その時は主治医のカルテや意見書、介護の認定記録を取り寄せて裁判することになりました。
たとえば「公正証書遺言が作られる1ヶ月前は徘徊が止まらなかった」という状態では、公正証書遺言の有効性は疑われてしまいます。
 
——その他にも老老相続ならではのトラブルはありますか?

被相続人が男性で、介護をしていたのが息子さんでその方も高齢者といったケースでは家自体が荒れることが少なくありません。
立地条件が悪ければゴミ屋敷状態の不動産を売却することが難しく、不動産化することがあります。
売却できるように修繕しようにも、市場価格を考慮すると修繕費用のほうが高額になるようなケースです。

そこから始まる不動産の押し付け合いは深刻な問題です。
 

相続人の認知能力に低下がみられた場合や死亡した場合はどうなる?

——先ほど被相続人の認知能力の有無が争いになるとおっしゃいましたが、相続人の認知能力が低下することもありますか?

もちろんあります。
相続人の大半がシニア層というケースでは、遺産分割協議で揉めている間に、一部の相続人の認知能力が低下することがあります。
相続人の認知能力が低下してしまうと、成年後見人を立てる必要があり、さらなる法律的な手続きが必要です。

相続人の認知能力が低下した場合は、速やかに弁護士に相談していただきたいですね。
そもそも皆様がご高齢ですと、相続のために必要な書類の取り寄せや相続財産の把握も難しいかと思います。
被相続人や相続人が高齢になると、相続人の人数も増えがちです。
これまでの経験でもっとも登場人物が多かったのは19人です。
皆さんが疑心暗鬼になっているような状態で、一軒一軒承諾をいただく必要がありました。
こういった状態になると、弁護士が介入しなければ解決は難しいのではと感じます。
 
——遺産分割手続きや話し合いの最中に、相続人の1人が死亡したらどうなりますか?

被相続人と相続人の関係にもよりますが、死亡した相続人の相続人が当事者になることになります。
死亡した相続人の配偶者や子どもが相続するのです。
つまり相続人が増えてしまうんですね。
こうなると死亡した相続人(新たな被相続人)の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を揃えて法定相続人を確定するという手続きも発生します。
死亡した相続人(新しい被相続人)の相続財産もあるわけですから、大変な作業になります。

戸籍を取り寄せるだけで煩雑です。
市町村のホームページで戸籍謄本を取り寄せるための定額小為替の金額を確認して、郵便局で購入して……といった手続きを繰り返す必要があります。
 

老老相続で困らないためにできること

——将来老老相続で困らないために事前に対策できることはありますか?

被相続人の立場であれば、基本は「元気なうちに公正証書遺言を残しておくこと」です。
これさえあれば、被相続人が亡くなったときに遺産分割の割合等で相続人達が揉めることは少なくなります。
公正証書遺言の作成を弁護士に依頼した上で、遺言執行人にしておくことをお勧めします。
遺言執行人とは遺言書に書かれた内容を実行する役割を担う人物です。
弁護士に公正証書遺言の作成を依頼して、弁護士を遺言執行人に指定すれば、老老相続の課題については解決できることも多いでしょう。
 
——「公正証書遺言があっても、遺言作成時の被相続人の認知能力が問題にされるケース」については、どのように対処すべきですか?

たとえばですが、私が、高齢の被相続人から公正証書遺言の作成を依頼された場合は、事前に主治医に診察してもらって意見書として残しておいたり、遺言作成時前後の被相続人とのやりとりを動画で撮影しておいたりといったように証拠を残しておくことを考えます。

さらに公証役場で公正証書遺言を作成する当日には、知り合いの司法書士や当事務所のパラリーガルに同席してもらいます。
法律実務家が証人になることで安心感の担保になりますから。
 
——相続人側が、被相続人が生きている間にできることはありますか?

被相続人に、弁護士に相続について相談するようにとすすめることでしょう。
被相続人本人が弁護士と面談をして、相続についての意向を弁護士に伝えるのです。
相続人が弁護士に依頼するのではなく、被相続人本人が依頼することが重要です。

また相続財産が不動産と呼ばれるような価値のない不動産しかない場合や、被相続人が財産を超える借金を抱えている場合には、「相続放棄」を検討しておくとよいでしょう。
相続放棄を申立てできる期限は相続の開始を知ってから3ヶ月です。

また亡くなってから慌てないように、生前に被相続人の財産をリストアップしておくとよいでしょう。
負債しかなく相続人が複数いる場合には、全員が相続放棄を検討することになります。
 

老老相続が不安な方、すでにトラブルが生じている方は弁護士にご相談を

今回は老老相続が抱える問題点やその解決方法について那賀島弁護士に質問しました。
老老相続問題は、被相続人や相続人の認知能力の低下や、相続人の死亡といったトラブルが発生しがちです。
老老相続では、遺産分割協議が揉めれば揉めるほど、認知能力の低下や死亡といったリスクが高まります。
老老相続をスムーズに進めたい方や、すでに問題が発生してしまった方は、蓮田総合法律事務所にご相談ください。
弁護士の那賀島とスタッフ一同が力を合わせて対応致します。

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