不動産の相続をスムーズに進めるためにはどうすればいいですか?【弁護士解説】
相続財産の中に不動産が含まれる場合、相続財産全体の価額に占める不動産の割合や相続人の懐具合によっては、不動産の価額などをめぐって「争族」になってしまう可能性があります。
なぜ不動産の相続は大変なのか、スムーズに話し合いを進めるためにはどうすればいいのか……不動産相続の注意点について那賀島弁護士に伺いました。
事例
都内近郊で一人暮らしをしていた父親が亡くなり、相続が発生しました。
相続人は子ども3人、財産は預貯金1000万円と株式500万円相当、不動産です。
ところが、不動産が複数あり(賃貸マンション1棟、自宅敷地・建物)、その評価額をめぐって相続人の間で対立が起きています。
遺言がなかったこともあり、私としては法定相続分通り3等分してほしいと思っています。
が、立地の関係で不動産の価値がそれなりに高いと思われますので、不動産をもらった人とそうでない人で不平等なことになりそうです。
私としてはなるべく穏便に相続を終えたいのですが、どうすればうまく相続を進められるでしょうか?
不動産の相続は大変
ー不動産の相続は大変だという話をよく聞きます。不動産の相続ではどんなことに気をつけなければいけないのでしょうか?
まず不動産は分割の方法でもめますね。
不動産の分割、つまり分け方は3つの方法があります。
1つ目は現物のまま分割する現物分割。
今回の事例であれば、1/3ずつ持ち分の登記をするということですね。
2つ目は代償分割です。
1人が不動産を取得してその分の対価を他の人に渡すという方法になります。
3つ目は換価分割、不動産を売って、その売却代金をみんなで分けるという方法です。
どの方法で不動産を分けるのがいいのか、というところで、真っ先にもめてしまうんですよ。
次に、もめるポイントは不動産の価値です。
不動産の評価額がいくらなのかをめぐって、みんなが折り合えるのかという点でももめます。
ー不動産って、数千万円以上するケースも多いですものね。特に、不動産の価値が高くて預貯金があまりないという場合は、大変なことになりそうです……。
おっしゃる通りですね。
預貯金を使って相続分の調整がしにくくなりますし、代償分割もやりにくくなるんですよね。
相続人の方が十分な現金を持っていればいいんですけど、そうでない場合は「このマンションは僕がもらうから、マンションの価値の1/3に相当する金額は現金であげるね」ということができなくなってしまいます。
ーなるほど。誰かが折れてくれればいいけれど、「きっちり3等分してほしい」という人が現れた場合には荒れるわけですね。
現金や預貯金があまりなくて不動産の価値が高い、となるとそうした事態が起きやすいですね。
じゃあ現物分割だという話になるかもしれませんが、現物分割するにも、全員の同意が必要ですから。
不動産の登記を1/3ずつにしましょう、というのもなかなか実現が難しいところがあるかもしれません。
逆に、再建築不可の自宅のように、価値が微妙な不動産がある場合は不動産の押し付け合いになってもめる可能性がありますね……。
ーいわゆる「負動産」の問題ですね。うまく折り合えない場合は「現物で共有」という結論になることもあると思うのですが、一方で「不動産の共有は面倒だ」という話もよく聞きます。共有は避けたいという人はどうしても出てきてしまいそうですね。
共有は避けられるのであれば避けたほうがいいんですよ。
「共有は紛争の母」という法格言があるくらい、ひとつのものを複数の人が持っている状態ってそれだけで紛争が起きやすくなるんです。
人間、みんな欲がありますから。
なので、遺産相続のときに不動産を共有状態にするというのはただのもめごとの先送りになりますので、あまり推奨されないですね。
ーできればすっきり分けて欲しいと。
分けられればそれが一番いいですね。
今回の事例の場合、法定相続分通り3等分してほしいというのが相談者さんのご希望ということですが、法定相続分がどう評価されるかですよね。
不動産の評価をいくらと評価しての3等分なのかが大切なポイントになります。
不動産の評価額はあいまい
不動産の評価って結構曖昧で、特に遺産分割協議の段階では計算の仕方が決まっているわけでもないんです。
だから、固定資産税評価額を基準に考える人、路線価を基準に考える人、あとは知り合いの不動産会社に査定してもらった結果をもとに考える人……いろんな人がいます。
ーここで評価額をめぐる見解が割れてしまうと、もめてしまいそうですね。
そうなんです。
だから、そういった場合は全員で査定書を出し合って、その平均値を取る……といった形で合意ができるといいですね。
みなさん、それぞれなじみの不動産会社で査定書を取ってきてもらって。
ただ、ここで難しい問題が1つあります。
それは「各査定額の平均値でやるのが本当に公平か」ということです。
というのも、みなさん査定してもらう際にどうしてもバイアスが入るんですよ。
「代償金がほしいから高めに査定してほしい」「不動産がほしいので低めに査定しよう」といったそれぞれの思惑が不動産の査定に反映されます。
基本的に「みんなが出した数字の平均値でやりましょう」というのはみなさん納得しやすい計算方法だとは思うんですけど、一番低い人の査定額と一番高い人の査定額が数千万円違った、なんていうケースはもめるでしょうね。
ー同じ不動産で数千万円査定額が違うなんてことはあるんですか?
高額の不動産の場合、不動産会社によって査定額が分かれることはありますよ。
収益不動産の場合はさらに問題が複雑に
ー今回の事例では、賃貸マンション1棟という高額の不動産がありますよね。ここの評価をめぐって、各不動産会社の査定額も割れるということですか……。
賃貸マンションのような収益不動産の場合はローンの問題もありますので、さらに複雑です。
特にマンションの価値よりローンの残債の方が高い場合、ローンの支払いもある一方で毎月賃貸収入が入ってくるわけです。
そうなると、そのマンションの価値っていくらなんですか、ということでもめます。
ー地主さんが相続税対策でマンションやアパートを建てる場合って、だいたい高額のローン組みますものね。
そのパターンは非常に多いですね。
そうなると、まずマンションを欲しい人は「ローンがあるからマンションの価値はゼロ円だ」と主張することが多いです。
一方、マンションは欲しくないけど代償金が欲しい人は「オーバーローンかもしれないけど、毎月の収益が○円出ている。
ローンを返した後は賃貸収入分が全部プラスになるから、その分がマンションの価値である」と主張してきます。
0円か、数千万円なのかで揉めるんですよね。
そうなると、それぞれの主張する金額にかなりの開きがありますので、本気で折り合いをつけるなら不動産鑑定士の鑑定で決着をつけるしかないんです。
でも、不動産鑑定士の鑑定って、おそらく数十万円~単位でお金が出て行くんですよ。
ーそんなに費用がかかるんですか!
専門家にお願いするということですからね。
特に収益不動産だと鑑定費用は高くなりやすいですね。
それで、鑑定費用は誰が払うんですか、ということでもめます。
ーそうなりますよね。
だからといって「遺産の中から差し引いてもいいですか」と弁護士が言うと、みなさんイヤだとおっしゃることが多いですから。
実際には不動産屋さんの査定書を取った上で話し合いになるケースが多いです。
この査定がまたくせ者で、賃貸不動産としての収益に注目した査定なのか、土地自体の価値に注目した査定なのかによって、評価額が大きく変わってきてしまいます。
ーそこで、うまく妥協できればいいんでしょうけど……。特にオーバーローンの場合は売って代金を分けるというわけにもいきませんし。
オーバーローンだと売るに売れないですから、ここで折り合えない場合はいったん現物のまま分けるしかないかもしれませんね。
収益物件を共有にした上で誰かを代表者にして、毎月のローンを返済した後に残った賃貸収入を分けると。
そうやって、ローンの返済が終わるまでやりすごして、ローンの返済が終わったら改めて不動産の分け方について話し合いましょう、とするしかないと思います。
もちろん裁判所の審判で決めてもらう、という方法もあります。
ただ、裁判所の審判で決めてもらう場合、ローンのことは審利の対象外になってしまうのですよ。
ーローンが高額だと悲惨ですね。裁判所の審判まで行き着く前に妥協した方が、結果的にみんなハッピーになれるということでしょうか。
行き着くところまで行ってしまうと、みんな損をするという話にはなりやすいですね。
ただ、実際問題、遺産分割協議に法的知識を持って臨んでいる方はなかなかおられないですし、最終的な損得について理解していないまま感情的になっているケースが多いのかなという印象があります。
とはいえ、当事者の立場で冷静に振る舞うというのもなかなか難しいですから、ここは早めに専門家にアドバイスをもらっていただければと思います。
弁護士からひとこと
不動産の相続にかぎらず、相続問題は家族間のコミュニケーション不足が原因でこじれるケースが多いと個人的には感じています。
家族間の認識にズレがあり、各自不満を抱えている状態だと、みんなが疑心暗鬼に陥ってしまいやすいからです。
相続問題は裁判にまで発展すると、時間的にも金銭的にも多大な負担が発生することになります。
とことん揉めてしまう前に、話し合いで解決できた方が得というケースが多いのです。
今回の不動産のケースであれば、相続人全員の欲しい財産の内容、それぞれの考える査定額を一覧表にまとめて共有した上で、調整していければ円満に話し合いがまとまる可能性が高いといえます。
ただ、いざ当事者の立場になると、客観的な視点で話し合いを進めるのが難しくなるのも事実です。
「揉めないためにはどうすればいいのか」ということだけでも、弁護士に相談してもらう価値はあるのではないかと思います。
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