お墓の管理をめぐって遺産分割協議が大荒れに~思わぬ相続の落とし穴【弁護士解説】
相続手続きの盲点となりがちなのが、お墓の相続です。
特定の相続人が引き受けてくれることになっていればよいのですが、そうでない場合にはお墓の押し付け合いになったり、誰も管理する人がいないお墓が発生したりしてしまうことも……。
こうしたお墓をめぐるトラブルは実務上もそれなりに多く、遺産の問題と一緒に燃え上がるケースもしばしば見られるようです。
今回は意外と難しいお墓の相続について、那賀島弁護士に伺いました。
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事例
私は4人兄妹の長男です。
最近、田舎で農業を営んでいた両親が相次いで亡くなりました。
両親はともに遺言を残しておらず、父親が亡くなったあと、誰が先祖伝来の墓を守っていくかで揉めています。
弟妹は「兄貴が長男だから墓守をするべき」と主張しているのですが、先祖代々の墓は山奥の辺鄙な場所にあり、きちんと管理できる自信がありません。
私自身もういい年ですし、自分の娘2人に余計な負担をかけたくないという気持ちもあります。
両親の遺産は農地がメインですし、都会で会社員をしている私としてはすべて弟妹にあげてしまってもいいと思います。
しかし、弟妹は「財産はもらってやってもいいけど、墓守は長男がやるべき」と譲らず、困ってしまいました。
私としては娘のことも考えて墓守になることは避けたいのですが、どうすればいいのでしょうか。
お墓の問題でモメるパターンはかなり多い
お墓に関する考え方には地域差もありますが、この事例のようにお墓の管理をめぐってトラブルになるというケースは比較的よくありますね。
財産の相続とお墓の継承の問題は本来別に考えるべきものなのですが、実際には相続の場面で一緒に問題になっているパターンが多い印象があります。
ー典型的なケースとしては、田舎に先祖伝来のお墓があるけど、子どもは全員都会に出てしまっているような場合でしょうか。誰がお墓を管理するんだ、と。
墓守を押しつけあうパターンですね。
あとは、「墓守をするから、その分遺産を多くくれ」というパターンもよく見ますね。
財産を多くもらう理由として、「墓守をするから」ということを主張する方は結構いらっしゃいますよ。
ふつうの相続とは違う!?お墓の相続に関するルール
法律的な話をすると、お墓や仏壇といったものの相続は「祭祀承継」といわれていて、法律の条文上、通常の財産とは扱いが違うんです。
ー相続は相続でも、他の財産とは適用されるルールからして違うということでしょうか。
そうなんです。
遺産とは扱いが異なるんですよ。
実際に相続について定めた民法896条を見てみると、「相続人たちは相続が始まったときから被相続人の一切の権利義務を承継する」というような内容が書いてあります。
ープラスの財産もマイナスの財産も全部受け継ぐということですよね。
そうです。
ところが、その次の897条、これが祭祀承継について定めた条文なのですが、ここに「系譜、祭具および墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習にしたがって祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」といった内容が書いてあるんですよ。
ここでポイントになるのが、「前条の規定にかかわらず」という文言です。
つまり、896条の規定は祭祀の承継については適用しないということですね。
財産の相続とは分けて考えなければいけませんよ、と。
本人が遺言で指定していればそれが優先しますが、そうでない場合は慣習にしたがって決めることになります。
ーこの時点で、ややこしい感じがします。慣習というのも考えてみると、よくわかりません。
少し曖昧な概念ではありますが、とりあえずは地域や一族の慣習と考えておけばよいと思います。
代々長男・長子がやる慣習があれば長男・長子ということになりそうですし、跡を継いだ人がやるというルールになっていれば相続で実家を引き継いだ人がやることになるでしょうね。
墓守をめぐってもめてしまった場合の対処法
ー今回の事例のように、長男が「墓守をやりたくない」と言っていて、他の弟妹もやりたくないという場合はどうなるのでしょうか。
その場合は、誰もお墓の管理をする人がいないということになってしまいますね。
そうした場合は墓じまいをするか、霊園だったら永代供養にするという解決方法がベストかもしれません。
ーたしかに、一度すっきり整理してしまった方がみんな気持ちよく過ごせるかもしれませんね。誰も管理しないままお墓が荒れ続けるというのも、ちょっと申し訳ない気持ちになりますから。
実際、相続をきっかけに墓じまいや永代供養にするというケースは多いんですか?
協議や調停の終わりにお墓の話が出てきて、永代供養に必要な費用をみんなで出し合って解決するというやり方は私もよくやります。
ただ、件数ベースで考えると、多いとは言い切れないですね。
地方だと、地元に残っている兄弟が「当然自分が墓守をするんだろう」と思っていてくれることが結構多いような気がします。
むしろ、「墓守をするから、遺産を多めにくれ」というパターンや、お墓の管理費をめぐってトラブルになるパターンが多いように思いますね。
ーこれはよくありそうな話ですね。
この場合は、墓守をやるための負担や管理費用がどれくらいなのか、合理的に金銭評価できるといいですね。
ー逆に、「墓守はやりたくないけど、財産はきっちり欲しい」という人もいそうですが……。
これは一番多いパターンかもしれません。
いちおう相続財産とお墓は法律上分けて考えることになりますので、その主張自体は通ります。
ただ、ここでお墓の問題をスルーしてしまうと、結局誰もお墓の管理をしないまま終わるという可能性もありますので、永代供養するかどうかも含めてきちんと話し合っておくことをおすすめしたいです。
どうしても解決できないお墓の問題は家裁の調停で決める?
一番難しいのは、「自分がお墓を管理したい、他の兄弟にはタッチさせたくない」という人が複数出てきてしまった場合ですね。
ーそんなパターンもあるんですね。
あります。
遺産分割は喧嘩しながらもなんとか終わったものの、最後にお墓の問題だけが残ってしまうパターンです。
「お墓は自分が見るべきだと思っているので、あんなやつにだけは管理させたくない」というご相談はたまにきますよ。
ーこういう場合ってどうすればいいんですか?
弁護士がタッチする場合、まずは遺言で指定がないかどうかを確認して、地域や一族の慣習を調べることになるでしょうね。
慣習がハッキリしない場合は、喪主を誰が勤めたのかお寺の檀家は誰がなっているとか、そういうところから解きほぐす必要もあるかもしれません。
それでも当事者双方が納得できない場合は、家庭裁判所の調停や審判に持って行くしかないですね。
「半分ずつ管理したらどうですか?」という話には、心情的にもできないと思いますので。
ー本当にモメてしまったら、家庭裁判所で判断してもらうということでしょうか。
そうですね。
民法897条2項に規定がありますので。
最終的には裁判官に判断してもらうということになるでしょうね。
そのためには、自分こそがお墓の管理者にふさわしいということを主張・立証する必要があるわけですが……実際問題、そこまでやりますか、という話になってきます。
ー争うにもお金と時間がかかりますからね。
実際、必要な弁護士費用の話をすると、「自分で何とかします」となるケースも多いです。
話し合いでうまく解決できるとよいのですが……。
相続問題では家族間のコミュニケーションがとても大切になります。
相続から少し離れた話になりますが、法事関係のトラブルも結構多いんですよ。
遺産分割でもめた時点で法事に呼び合わなくなるので、「なぜ呼ばれていないのに、法事の費用を負担しなければならないのか」という話になりやすいんですよ。
ここまでいくと、すべて法律で解決するのは難しいかもしれませんね。
弁護士からひとこと
お墓の問題は相続トラブルの中でも法律で解決するのがもっとも難しい分野といえます。
ただ、ここで対立を続けると誰も管理しないお墓が生まれてしまう可能性もありますので、まずは家族間できちんと話し合い、みんなの納得のいく形で落としどころを見つけることが重要です。
「話し合いはまとまりそうにないが、どうしても解決したい」という場合は家庭裁判所の審判で裁判官に判断してもらう方法もあります。
その場合の主張や立証についてはまさに弁護士がお力になれる分野だと思います。
また、経験則上、お墓関係でもめているケースでは、相続財産をめぐるトラブルが起きていることが少なくありません。
弁護士が介入すれば、これらのトラブルをまとめてカバーできますので、まずは一度ご相談いただければ幸いです。
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