死後の手続きはどうなる?おひとりさまのための相続入門【弁護士解説】 |埼玉県、蓮田市・白岡市の相続に経験豊富な弁護士

死後の手続きはどうなる?おひとりさまのための相続入門【弁護士解説】

未婚率の上昇にともない、相続人となるべき配偶者や子どもがいない人も増加すると思われます。
こうした「おひとりさま」の場合、相続はどうなるのでしょうか。
おひとりさまをめぐる相続問題について、那賀島弁護士に伺いました。
 

おひとりさまの相続ってどうなるんですか?

私は現在50代後半の会社員です。
結婚はしておらず、子どももいません。
また、今後結婚する予定もありません。
そんな私ですが、あと10年もすれば会社も定年になるということで、そろそろ老後のことを考えるようになりました。
私のような「おひとりさま」の場合、相続はどうなるのでしょうか?
ちなみに、今はかわいいチワワの子犬と一緒にマンションで暮らしています。
 

おひとりさま、相続人は誰になる?

ー今回の相談者さんは、愛犬と一緒に暮らす「おひとりさま」のようです。このような場合、相続の手続きはどうなるのでしょうか?
 
まず、このようなケースで相続人が誰になるのかについて確認してみましょう。
相続人については民法で決められていて、配偶者はつねに相続人になります。
それ以外の人については、第一順位、第二順位、第三順位といったようにグループが決められていまして、より優先度の高いグループにいる人が相続人になります。
この場合、子どもが第一順位になるわけですけれども、相談者さんにはお子さまもいないわけですよね。
ということで、この場合は第二順位、相談者さんの直系尊属であるご両親が相続人になります。
ご両親が亡くなられている場合は第三順位、相談者さんの兄弟姉妹が相続人になりますね。
 
ー親も兄弟も亡くなっているという場合はどうでしょうか?
 
この場合は亡くなっている兄弟にお子さんがいれば、そのお子さん、相談者さんからみるとおい・めいにあたる人が相続人になりますね。
一方、おいめいもいない、というケースでは、相続人が誰もいないということになってしまいます。
この場合、相続人が不存在ということになりますので、相談者さんの遺産は国庫に帰属することになりますね。
 
ー愛犬に遺産を残すことはできないんですか?
 
今の日本の法律ではペットを相続人にすることはできないんですよ。
ただ、おひとりさまの場合、相続人がいないから遺産は国庫に帰属する、ということで本当にいいのか、という点は、考えておいたほうがいいと思いますね。
たとえば、相談者さんのようにペットがいる方の場合は、愛するペットのために信託をするという方法があります。
また、「推し」がいる場合は、自分の「推し」に遺産をあげちゃうとか(笑)そういった方法もあるかもしれません。
 
ー「推し」に遺産をあげる、ですか。また思い切った方法を(笑)ところで、日本の民法では特別縁故者制度というものがあって、相続人がいない場合、内縁の夫(妻)や生前故人の面倒を見ていた友だちなんかが「特別縁故者」として遺産をもらえる、と伺ったんですが……。
 
特別縁故者にあたる人がいれば、そういう可能性もありますね。
でも、特別縁故者制度って、特別縁故者にあたる人が「自分がそうです」って自分から申し出る必要があるんですよ。
この申し立てが結構大変でして。
相続人の不存在を確定させて、さらに相続財産管理人をつけて、という前提でやらないといけないので、手続きが非常に面倒なんです。
 
ーそうだったんですね。特別縁故者って、もっと簡単に遺産をもらえるものだと思っていました……。
 
手続きは大変ですし、時間もかかります。
ですから、もし「お世話になった人に遺産をあげたい」という方は遺言を作って、自分が遺産をあげたいと思っている人に遺産が行くようにした方がいいですね。
 

一応家族はいるけど遺産をあげたくない場合は?

ー先ほどは、どちらかというと天涯孤独のおひとりさまの話でしたが、いちおう親や兄弟、おいめいがいるケースについてはどうでしょうか? 家庭環境によっては、家族がいるけど疎遠で……という場合もあると思うんですが。
 
まずご両親が健在の場合はご両親にいきますし、「親には一銭もわたさない」と他の人に遺産を全部あげるような遺言を書いた場合には遺留分の問題が出てきますよね。
一方、兄弟姉妹・おいめいには遺留分がありませんので、遺言があれば好きな人に遺産をあげることができます。
 
実際、「仲の悪い兄弟に遺産をあげたくない」ということで、遺言を書かれる方は多いですよ。
 
ーなるほど。親族関係が比較的円満な場合も、このテクニックは使えますよね。特定のおい・めいを指名して、「遺産をあげるから、万が一の手続きを任せる」といったような話を聞いたことがあります。
 
もちろん、そういったこともできますね。
遺言はいくらでも書き直せるものなので、もし指名した親族による財産の使い込みであるとか、そういったトラブルが起きた場合には遺言を書き直してしまえばいいんです。
ちなみに、おい・めいがいるのに、遺産を他の人にすべて遺贈するといった内容の遺言を作成した場合、遺言の有効性をめぐって争いが起きることが多いです。
こうしたトラブルを防ぐためにも、遺言を作るのであれば公正証書遺言がおすすめですよ。
 

おひとりさまと老後・終活

ーこうしてみると、おひとりさまの相続って、これまでの家族関係によってもだいぶ変わってくるんですね。
 
そうですね。
ただ、ひとついえるのは、一般的に年をとると人間、心細い気持ちになってくると思うんですよ。
そうなると、心細い時にそばにいてくれた人に財産をあげる、といった行動を取りやすくなってしまうんですね。
「財産をあげる」という言葉で、近くにいる人の歓心を買って、そばにいてもらえるようにする。
そういった行動をとっている高齢者の方って結構多いです。
 
ーその結果、財産をめぐるトラブルも起きやすくなると。
 
そうですね。
だからこそ、特におひとりさまの場合は、自分が元気なうちに、老後の財産管理や相続についてきちんと考えておくべきだと思います。
 
場合によっては生前のうちに財産を整理することも必要かもしれないですし、ある程度財産がある人であれば判断能力が落ちた場合に備えて任意後見契約を結んでおくべきかもしれない。
また、一戸建てに住んでいるおひとりさまの場合、自分の死後に自宅が空き家になってしまう可能性も考えておかなければなりませんね。
その場合、自分が生きているうちに自宅を売るという選択もしにくいでしょうから、遺言で遺言執行者を指定して自宅を処分してもらうということになると思います。
 

弁護士からひとこと

遺言を書く、財産の整理をするといった行為をするのには、エネルギーが必要になるものです。
まだ体力・気力が残っているうちに、遺言の作成などの手続きを進められることをおすすめします。
 
おひとりさまの場合、周囲に相談できる方もおらず、自分の老後や相続について不安を抱えている方もおられると思います。
 
トラブルに巻き込まれるリスクを考えると、財産の話というものは気軽に友人・知人にはしにくいものです。
 
こういったケースで、相談内容を周囲に知られず、かつ信用できる回答を得るためには、弁護士のような専門家が頼りになります。
弁護士には守秘義務があるため、相談した内容が誰かに漏れる心配はありません。
 
もし不安なこと、心配なことがあれば、気軽にご相談いただければと思います。

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